考える:自転車を押し引きすると速度は変わる? (2022.6.7 記)

 ちょっと前の話になってしまいましたが、いつもと毛色の違う動画を作ってみたんですよ。

 自転車に乗った状態で、『自転車を前に大きく押し出したり引いたりすると自転車の速度が変わるのか』を見てわかるもの。

 結論としては「速度は変わらない」ですね。
 その一瞬だけ見れば自転車は前に出ていますが、結果的に自転車の速度は増えていません。元の姿勢に戻れば戻ります。
 これは力学上当前のことなのですが、そういえば自転車でそういう映像を見たことがなかったな、と作ってみました。

 自転車を押し出す方が明らかな加速をするのであれば、身体の位置が戻った時に何もしない時より先に進むはずですがそれは起きていませんね。

 比較してる「自転車上の身体の位置」については、本当は「アタマとヘッド下が揃った時」などではなく、自転車と身体それぞれの重心の位置関係で比較できる良かったのですが、そんなものを解析できる計測機材を持っていません。
 ということで、できるだけ正確に動いてみようとは思ったのですが、姿勢を戻した時の姿勢に乱れがあり、重心の位置には若干の位置のズレがあると思われます。

 ちなみに、「ペダリング時に”ハンドルを前に押す”と進む(ペダリングの力が増える・回転が上がる)」のは実際に起こるのですが、これは違う理屈によるものです。
(以前、この二つを混同している論を見たことがありますので注意してくださいね)

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 これについて長い解説を書いていたんですけどちっともまとまらないいつもの病。
 で、一旦諦めて簡単に説明をしておくことにします。

 これは、主に以下の要素が重なって起きている現象?です。

  • 車輪の働き
  • 作用・反作用の法則

 『車輪』は、重たいものをその軸に載せても、ものすごく小さな力で移動させることができますね。
 自転車にはそれが二つついていて、その回転方向には地面との摩擦抵抗の影響がとても小さくなります。 これは、車輪軸の上に乗っている荷物(自転車&人間の身体)にとって、ということです。

 

 『作用・反作用の法則』は、何かに向けて力を加えた時、その正反対に全く同じ力が働く、というものです。
 よく例えられるのは、ボートに乗った状態で他のボートを押した時、押されたボートだけではなく押した方の乗っているボートも動いてしまう、といったものです。

 
 この『作用・反作用の法則』の働きによって、人間が自転車に乗った状態で人間が自転車を押し出すと自転車は前に移動しますが、押した人間も同じだけの力で押し返され後ろへ移動します。

 上で述べたように、自転車は『車輪の働き』によって前後方向については極端に摩擦の影響が小さい状態ですよね。

 人間が、何かを押し出す時には、その押し出す力を「支える力」が必要です。
 例えば、車を人間の力で押し出す時、地面がしっかりとグリップしてくれれば人間の力で押し出すこともできますが、地面がツルツルに凍った氷だったらどうなるでしょう?

 押す「力」は車に伝わり、同じだけの力が押した人にも働きます。先ほどの「作用反作用の法則」です。
 そして、その反作用の力は身体を通して地面に伝わります。

 地面が凍ってなく、十分にグリップする(摩擦力の大きな)地面であれば、手で押した力は地面を「押す力(作用)」として伝わり、その反作用として「身体を支える力」が手に入ります。
 この「支える力=摩擦」があるから、人が発する「車を押す力」が十分に車に伝わるわけです。

 ですが、地面が凍ってツルツル滑る場合、地面に「押す力」は伝わりません。ですからその反作用である「支える力」も手に入らないことになります。
 この時、「車を押した力」の「反作用の力」は消えるわけではなく、「身体を移動させる力」として働き、「身体は車を押したのと反対方向に動く=滑る」ことになります。

 これは、人間が地面上を移動するときにも同じことです。
 歩くときには、片方の足を前に出しますが、この時同時に残った足が地面を後ろへ押していますよね。この残った足の下の地面に摩擦がないと、足が滑ってしまうだけで前に進むことはできません。

 つまり、地面に対して力をかけ、「前に進む力=加速する力」を得るためにはそれを「支える力=摩擦」が必要ですよ、ということです。

 車輪に載っている自転車と人間は、両方ともが「前後方向にだけ摩擦が極端に少ない(滑りやすい)」状態ですから、その一方である人間が自転車を押しても、車輪の働きによって地面に対しては何の力を伝えことができず、その速度が変化することもありません。引きつけた時も同様です。
 また、自転車を押し出しても、その反作用によって身体もまた押し返されます。この時、相互に働く力は同じなので、重い人間の移動は小さく、軽い自転車の移動量は大きくなります。

 以上のようなことを確認したのが今回の動画なんですよね。

 

 ついでに。

 この時の自転車と身体の地面に対する「速度」は、自転車と人間の重心を合わせた『合成重心』の移動速度と考えられます。

参考↑


 路面が平坦であれば、この合成重心の移動が、ほとんど同じ速度を維持する等速直線運動であっても、平坦な下り坂をだんだんと速度を増していく等加速度運動であっても、合成重心はその運動を続けます。

 なぜなら、ここまでに説明したように、自転車をその進行方向に対して前後に押し引きしても、その力は地面に伝わらず、速度の変化を起こせないからです。

 この時の『前後」は「自転車の移動方向を前」とした時の前後です。
 下り坂であれば、その斜面に平行なベクトルとなります。

 斜面である場合、斜面に対して垂直方向には反力が発生しますから、これをうまく利用すると加速できるかもしれません。ですが、これは地面に対する押し引きとは違う要素が加わるということで「自転車を押し引きする」とは区別します。

 また、路面が平坦ではなく「波状」だったりすると、その角度変化に押し引きのタイミングを合わせることによっては速度が変化させることは可能だと考えられます。ただし、これによる加速は弱く、強い加速を生み出す「プッシュ」の原理とは違うものですからご注意ください。

 実際には、前後に動かす時のブレや、路面の小さな凹凸などとそれらに対しての動作のタイミングで速度にわずかな変化が起きる可能性があります。
 また、そうした細かな要素によっての速度変化は、より影響を受けやすい小さな車輪の方が起きやすくなりますね。

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 ということで結局長くなりましたが解説をしてみました。実は動画もこの感じで作って本局チャンネルに出そうとしてたのですが、なかなか編集に難儀していてとりあえずキモの部分だけ先に出した感じです。

 これを書きながら、「この動作中の複数の姿勢を重ねることで、大体の自転車の合成重心位置を知ることができるんじゃないか?」という可能性に気がつきました。
 うまくできたら、またブログに書こうと思います。(できなければ沈黙)

 こうしたことは知らなくても全然困らないとは思うのですが、より発展していく何かを考える時の足がかりとしては必要なものです。
 また、様々な人が様々なことを発することができる現在ですから、その情報を見極めるためにも必要ではないかと考えます。

 それでは、また。